完全無視作戦②
「こっちはsiroukiiさんを待つために車中泊しているんだよ!」
「嫁には事情が話せないからな。これで夫婦仲が悪くなって離婚したら
siroukiiさん、あんたの責任だからな!責任とれよ!」
車中泊?見え透いた嘘を。嫁と離婚?そんなの知るか。
金を巻き上げるアンタが悪いだろ。金など返すつもりもないくせに。
富永と会えば必ず金渡すまで帰してくれない。追いかけまわされる。
話が通じない相手だ。
だから無視するに限る。ああいう屑には無視が一番。
ある日、遅番を終えて自宅に戻って車を駐車した。
そこへ車をのぞき込む一人の男が出てきた。
富永だった。
「!!」
私は急いで車から降りた。
富永が何やら言っている。
次の瞬間、私の拳がまっすぐ富永を襲った。
拳は当たらなかったが富永はひるんだ。
そのすきに私は玄関に飛び込んだ。
その後
「こういうことされるのは嫌でしょ?だから会いましょうよ」
とヘラヘラしたメールを送ってきたかと思えば
「いきなり殴りかかってくるなんて暴力団かよ!あばらにひびが入ったらしい。
今、病院に向かっている!責任を取れよ!」
などと恫喝するメールを送ってきた。何があばらにひびだよ。拳は当たらなかったし。
もちろん私は返信せず無視を貫き通した。
この件で富永はネチネチと「けがをした、治療費と慰謝料を払え」と私に恫喝をかけてくることになる。もちろん、診断書とやらも提示してこない。ようするにホラである。
ギャンブル代が欲しいのだ。
ある日、職場の飲み会があった。珍しく昼間の飲み会だ。
開放的なビアガーデンだった。系列施設を含む多数の職員が参加した。
夜勤明けだった私はバスを乗り継いで会場の集合場所に着いた。
遠くから富永がやってくるのが見えた。私は面倒だと思いその場を離れた。
「逃げなくてもいいじゃーん」
富永から茶化すメールが来た。
飲み会が始まっても私は富永と遠い席だったからゆっくりとビールを楽しんだ。
バイキング形式だった。さてビールと料理を取りに行ってくるかと席を立ち
、料理を取っていると富永がぬっと出てきて
「siroukiiさん、飲み会の後、治療費と慰謝料について話し合いましょうよ」
と話しかけてきた。私は無視してその場を立ち去った。
飲み会が終わり、解散して参加していた職員がばらけ始めた。
私は周りの人に軽く挨拶を済ませると
脱兎のごとく会場を後にした。階段を急いで駆け下りて駆け足で店を離れた。
富永が追いかけてこないことを確認してから近くの住宅地に紛れ込んだ。
その後、富永からメール攻撃の嵐だった。
「わかった!明日から徹底的にお前にまとわりついてやるからな!
今日のところはお疲れ様」
ときた。私はもちろん無視して徒歩で近くの駅に向かい電車に飛び乗り自宅に着いた。
ある日、遅番を終えて帰宅すると
「お前が会ってくれないから、siroukiiさんの自宅近くでチンピラに殴られた。
siroukiiさんに返すつもりの金もチンピラに強奪された。だから金は返せない」
とメール。返すつもりの金など用意もするつもりもないくせに。
チンピラに殴られたなんてのも狂言だろう。私を呼び出すための。
もちろん無視した。
こうして長い期間、無視を続けた。
富永はひたすら私の自宅や職場を撮影した写真を添付したメールを送り付けてきた。
それでも自制心を働かせて返信しなかった。
あまりにもしつこい富永が白旗をあげることになる。
最初からこうすればよかった。