金の巻き上げが始まる③
こんなこともあった。
いつもの如く、いきなり富永に呼び出された。コンビニに。
コンビニにはATMがある。いつものことだ。
血相を変えた様子でまくし立ててくる。
「俺には大切なダチがいるんだよ。Q県に住んでいてね。金がなくて生活に困っているんだよ。俺はなんとかしてやりてえんだ。siroukiiよ。あんただけが頼りだ。頼む。5万円貸してくれ。今すぐ車を飛ばしてQ県に行ってダチに届けてくるから」
ハア???
「あのさ、ではそいつの携帯の電話番号を教えてくれないか。俺が金を出すんだからね。そいつと一度話がしたい。」
「いや、無理だ。経済的に困窮しているから携帯は使えない」
「では名前は?Q県の何という街に住んでいる?住所は?」
「いやだから・・・プライバシーの問題が・・・ゴニョゴニョ・・田中・・・」
「おかしいだろ??会った事もない、素性も知らない奴に金なんか貸せるか」
「頼む!俺の大切な大切なダチなんだよ!今でも待っているんだよ!」
「では俺は大切ではないのかよ!安月給なんだよ!」
「大切ではないとは言っていないだろ!」
何度も何度も押し問答した。
どれくらい時間が経ったのだろう。フラフラ、クラクラしだした。
ギャンブラーがこんなにもしつこいとは思わなかった。
魔が差した。
5万貸してしまった。
「恩に着る。ダチにすぐ届けにQ県に向かう。」
富永は携帯電話で電話をするふりをしながら車に乗り込む。
安い演技だ。
これは後にやれ親戚の人が大怪我したから金貸してくれとか
怖い先輩に金を要求されているとか、
後の金たかりした後に必ず行った演技だった。
もう早い話が寸借詐欺。パチンコ代に消えていった。
話を戻す。
富永が去った後、私は嫌な予感がしていたので私も車を走らせた。
市内の大手パチンコ屋をしらみつぶしに訪ねた。
数件訪ねた後に某パチンコ屋の駐車場に見つけたよ。奴の車が。
車種、車の色、ナンバープレートも同一だ。
何が今からQ県に向かうだよ。何が大切なダチに会いに行くだよ。
こっそり店内に入ったら奴を見つけた。悲しくなったね。
富永もおかしいが私もおかしい。
もう幼少の頃からの執拗ないじめで人間おかしくなっていたかもしれない。富永もそうだけど、過去の連中も私のようにおかしくなった人間を見抜くのが本当に上手い。
迷ったが富永を問い詰めようと店内に入った。
「何をしているんだよ」
私は静かに富永を問いただした。
他の客や店員も沢山いるから大ごとにはできない。
富永はびっくり慌てていると思いきや意外と冷静だった。
っていうか無表情ですました表情をしていた。
異常なのは富永もだった。
「いや・・急に先輩からパチンコ台の代打ちを頼まれちゃってさ、Q県へはこれが終わったら行くよ」
「・・ふざけるなよ・・・」
私は捨て台詞を吐いてパチンコ屋の外へ出た。他の客や店員がこっちを見ていたから。
本当は外へ引きずり出してボコボコにするのが普通の人間の感覚だけど私は警察沙汰になるのを恐れて何も出来なかった。
悲しかったが不思議と涙は出なかった。
もう他人から不当な扱いを受けるのは慣れてしまったのかもしれないな。
後日、さて友達(田中)から金返してもらったのか?と富永に詰め寄ったが
グダグダと言い訳を言われた。まだ連絡つかないとか。
では、俺と一緒にQ県まで行くか?と言われた。Q県?私達が住んでいる県からかなり遠い。正気か。一泊二日のつもりで富永の車に乗り込んだ。
道中、パーキングエリアだったか。休憩中に富永が携帯電話で電話しだした。
もちろん、これは演技だとすぐに気づいた。
「奴はまだ困窮していて金を返せる状態ではないと泣きそうだった。すまないな。
だからQ県には行けなくなった。仕方がない。夜の釣りに行こう」
フン!そんなことだろうと思った。寸借詐欺だからだろ?パチンコに消えた金なんだろ?
最初からQ県に行くつもりなんてなかったんだろうよ!
よく考えてみればおかしかった。
その友達の名前も住んでいる街も電話番号もはっきりとは言わない。
田中などという、よくある名字は怪しかった。
直接金を届けに行く?それからして怪しかった。
今の時代は振込とかあるではないか。現金書留という郵便だってあるではないか。
あまりのしつこさに断れなかった。
富永も異常だが私も異常だった。