強制アルバイト②
あまりの執拗なバイトやれやれ攻撃に私の心は折れて白旗を挙げざるを得なくなってきた。しばらく粘ってはみたものの逃げられなかった。
あまり長期はしないということで。
パチンコなんて大嫌いだったが仕方がない。
貴方に結婚式の費用を捻出してほしいから。
こんな他人に間違った使命感で物事を強制できるものなのか。
それを疑問に持たないような人間と友人になってしまう。みじめというか。
小型の手持ち籠を100円ショップで購入した。複数の布をいれてバイトに行くことになる。これでパチンコ台を拭くのだ。
清掃業者の担当者の下に挨拶と面接に行く時、富永のニヤニヤと勝ち誇った顔が下品に見えた。説得してやったぜ、口説き落としてやったぜみたいな。
業務は21時30分からだった。
本業の介護職でも遅番という夜遅く終わる勤務もある。だから急いで車を走らせて勤務のパチンコ屋に向かわなければならない。
夜勤明けの日でも眠い目をこすりながらパチンコ屋に向かわなければならない。
本業が休みの日でも、もちろんバイトのある日は行く。
全く労働漬けの日々だった。
勤務するパチンコ屋はみんながよく知っている超大手だ。
まず日ごとに自分の担当のパチンコ台の左右の列を割り当てられる。
数えたことなんてないが30台から40台くらいはあったか。
まず使用後のパチンコ台は煙草の灰で汚れている。ひたすらはたいて灰を落として
雑巾で拭く。から拭きもやった。タバコの吸い殻がたまる箱も回収して専用の
缶にぶちまけた。すごいタバコの匂いだった。
パチンコ台の上には玉を入れる出玉箱があるが拭く。出玉箱はそこだけではない。台の列の端にも10箱くらいある。それも両端に。すべて拭く。
担当の台の列の下の汚れもほうきで掃きあげる。
もう流れ作業だ。ゆっくりと作業しては間に合わない。気が狂ったように素早く横移動して台を拭くのだ。行きつく暇もない。大急ぎでやらないと間に合わない。
日によっては床清掃マシンで床を水拭きする担当もある。
機械の使い方を体で覚えた。急いで部品の交換と清掃も行った。
時間にして一時間半くらいだったか。一時間半って普通は長い時間ではあるけど作業中はあっという間の時間である。あまりの大変さにもっと長い作業時間が欲しいと思うくらいだ。暑い日は汗だくになった。
作業後は、富永と近くのコンビニに立ち寄った。富永は上機嫌だった。
イートイン席で競馬の話やらをしてきた。しかし私は白けていた。
富永主導の「職場の競馬サークル」はすっかり下火になっていた。
以前は好きな騎手とか好きな調教師とかがいた。富永に洗脳されて競馬に関心を持ってきた。私自身も万馬券が欲しくて場外馬券売り場に通い詰めた。
しかし、その場外での醜い光景を目撃してきた事に加え、今回の富永による強制的なバイト勧誘もあってか競馬の熱が冷めたというか、競馬の洗脳が解けたといったほうがいいかもしれない。
これを機に競馬を辞めようと決心した。所詮はギャンブル。ロマンなんて存在しなかった。
競馬の電話投票の解約の手続きを断行した。
入会時の封筒は華々しいチラシが沢山入っていたが
退会時のお知らせの封筒は何とも寂しい地味な白い封筒なのは落差を感じてしまう。
解約したけど電話投票に使用した専用口座自体はそのまま残ることになる。
その専用口座に毎週千円づつ、コンビニのATMから入金した。
そう「競馬やったつもり」貯金なのだ。
数年間続けた。結構貯まった。
今住んでいる街は小都市だから支店やATMがなかった。だから近くの大きな街の支店まで行って通帳記入をした。数年後、それすらも面倒になってその口座すら解約した。
これでよかったかもしれない。話が脱線したが競馬から距離を置いた私。
もちろん、本業に加えてアルバイト。競馬なんてできるわけがなかった。
アルバイトの話がもう少し続けたい。