「地獄大学」31 大爆発!
私も大学四年生になり就職活動を始めなければならなくなった。
その間も悪党連中による陰湿ないじめが続いていた。耐えるしかなかった。
卒業するまで。退学などしたら高校の後輩が推薦入試の枠がもらえなくなる。それは避けたかった。推薦入試の縛りが私を苦しめた。
とにかく就職活動を理由に地元へ帰省する理由付けができたことは良かった。
それ以前に両親にいじめがバレてから帰省の頻度を上げろと言われていたし。
就職活動を理由に帰省する(悪党連中にいちいち許可は取っていられない)と
私の実家にまで悪党連中から電話がかかってくる。いじめ相手がいないから不満なんだろう。むしゃくしゃしているんだろう。
「いつ片銀市に帰ってくるんだ!!」
怒鳴り声が響く。だから電話の呼び出し音が恐怖だった。今も好きではない。
察した親が私から受話器を奪い取り悪党どもを一喝することもあった。
私は片銀市内の大学近くのバス停に向かって歩いていた。
カバンにはリクルートスーツと革靴が入っていた。これからバスに乗って片銀駅に向かうつもりだった。他都市へ某企業の会社説明会の出席のためだった。
大学敷地の周りにバスが循環しておりバス停がいくつかあった。どこからでも片銀駅に向かえる。さて、ここのバス停から乗るか。徒歩で大学前に差し掛かった時だ。
疋田の車がさっと駆け寄ってきたではないか。ヤバい!つかまってたまるか。
「siroukii!こっちへ来い!」
私は逃げ出して大学内へ入った。正門ではなく塀の隙間から大学構内へ逃げた。
バン!車のドアの音がした。疋田の車から高岡が下りてきて私を探し出した。
何とかその時は高岡をまくことができた。危ない危ない。
さて、どっかのバス停にすぐに向かおう。再び大学外へ出るべく移動した。
某校舎の裏口に差し掛かった時だ。
「!!!」
裏口から高岡と疋田が出てきて運悪く鉢合わせしてしまったのだ。
私はこれから会社説明会のために旅立たないといけないんだ。なんてこった。
次の瞬間、私は脱兎のごとく猛ダッシュで逃げ出した。
それはそれは半狂乱になって百メートル競走の選手であるかのように。
狂ったように私は逃げた。高岡も狂ったように私を追いかけた。
疋田は追いかけてこなかった。車へ戻ったようだ。
うあああ!!!
校舎をぐるりとまわり、主校舎のメインの入り口前に差し掛かった。
私も高岡も息が絶え絶えになっていた。
私は近くにあったベンチに倒れこむように座り込んだ。後から高岡もついてきた。
私は全身を大きく震わせて呼吸を整えていた。ハアハアハア・・・!!!
「疋田君はタバコ吸っているから息がついてこれないし。なんで逃げるんだ・・」
高岡もハアハア息を荒らしながら絞り出すような声を出した。
その時だった。私の中で何かが切れた。私は高岡に問いかけた。
「楽しいか・・?面白いか・・?」
「楽しいってなんだよ。面白いってなんだよ・・」
高岡も問いかける。
「いじめやって楽しいのかっていうんだよ!!!(いじめは)お前らの楽しみなんだ!!生き甲斐なんだ!!ストレス解消なんだ!!ふざけるな!!」
「・・・」
「お前らは人の痛みとか苦しみとか分からないんだ!!!そうやってこの俺を陥れるつもりなのか!!!」
私は大きな口を開けて大絶叫した。積もり積もった鬱積や不満が大爆発した。
あと何か言ったっけ?とにかく大声を出しまくった。
私は今も昔も声が小さい。でもこの時ばかりは大声を出しまくった。キレまくった。
高岡はびっくりしたようにあっけに取られていたが反問してきた。
「だったら何故、片銀市中心の繁華街でチンピラに絡まれて殴られましたって言わないんだよ!!」
それは私が角松に殴られて顔面を負傷した時のことだ。もちろん他の悪党連中は笑って見ていただけだったし。録音もされた。
この私の顔面負傷で北村荘の住人やおばさんだけでなく大学側も心配していた。
もちろん、前園君グループにも心配をかけた。
何故、チンピラに殴られたことにしないといけないのか。
「〇〇君に頼んでコンピューターの文章を訂正してもらえばよいではないか!!」
大学でコンピューターを使った授業があった。私の打ち込んだ文章が変になっていた。
紺野の奴が嫌がらせで小細工して打ち込んだらしい。それもまた問題になった。要するにそれらの出来事は自分たちが疑われているからお前がなんとかしろと。
「俺らを貶めるつもりかあ!!」
高岡も逆上していた。そこへ飯山先生が険しい顔をして校舎からやってきた。
表で大声がするから見たら私と高岡が大声で怒鳴り合っているので乗り込んできたのだ。私は冷静さを取り戻した。
「こっちへ来い!!」
高岡は慌てて飯山先生から逃げるように去っていた。私も飯山先生に捕まったらどんなことを言われる分からない。普段白い目で軽蔑されているから後ろめたかった。
仕方がなく高岡に捕まりその場を去った。
大学の駐車場に止めてあった疋田の車に連れていかれた。
「ダッシュで逃げることないじゃん!」
疋田も呆れていた。
高岡と疋田と私。しばらく押し問答した。
私はこれから就職活動だから行かせろ!って宣言してその場を去った。
急いで大学裏手の外に出て近くのバス停でバスを待った。
ああ、私は何をやっているんだろう・・・また面倒なことに。
私は頭を抱えた。当然、今日の出来事は紺野にすぐさま報告が行くだろう。
後日どんな制裁を受けるのか?連中と鉢合わせするなんて運がないんだな・・
絶望のまま、来たバスに乗り込んだ。
片銀駅で酒を買い込んだ。会社説明会は明日ある。開催される〇〇市でビジネスホテルに泊まるから、今日はヤケ酒だ。いや今からヤケ酒だ。駅で列車を待つ間、ホームで缶ビールを飲んだ。
駅のホームに響くけたたましい発車音が空しく響いていた。