「地獄大学」25 チンピラ
悪党連中に無理やり付き合わされているとよくチンピラに絡まれる。
紺野はある時、愚論荘が窮屈だとアパートに移った。
疋田もまたアパート暮らしだ。いつものように深夜帰るころになると
紺野と疋田は近くのスーパーでタクシーを呼び帰宅しようとした。
もちろん私と高岡もタクシー乗車場まで付き合わされた。
そこへ二人組のガラの悪そうなチンピラが近くを通りかかった。
「喧嘩打ってんのかコラあ~!」
タクシーに乗り込む間際、紺野はチンピラを挑発した。そして疋田とタクシーに乗り込み
立ち去った。
残された私と高岡にチンピラ二人組が襲い掛かった。
「待てや!!」
それぞれ逃げまくり、高岡は近くの交番に駆け込み警官を呼んだ。
チンピラはいなくなっていた。
「全くガラの悪い奴らだ・・・」
高岡はつぶやいた。
こんなこともあった。
カラオケに行かされた時、疋田の車中にて私は悪党連中にタバコを買いに行かされるように命じられた。私は車から降りてしぶしぶタバコの自販機に向かった。
その近くの酒の自販機前にてチンピラ四人組が酒盛りをしていた。
「セブンスターも追加で買え!」
紺野は助手席から私に叫んだ。その時だった。チンピラ四人組がすごい形相で車に向かってきた。多分チンピラからしたら紺野が喧嘩を売ってきたと思ったんだろう。そのうち一人が紺野に殴りかかった。2~3発は殴っただろうか。
「降りろやあ!!」「やるのか!!」「コラ!!」
四人組は悪党連中を怒鳴りつけていた。私は車の近くまで戻り
リーダー格のチンピラに事情を説明した。タバコを頼まれたんです、その声なんですと。すると
「気を付けて行ってらっしゃい~」
リーダー格の男はゲラゲラ笑いながら他の仲間とともに車に乗り込み去っていった。
「今度会ったらボコボコにしてやる」と紺野。
「こいつら柔道技で倒せると思ってた」と高岡。
私は何も言わなかったけどね。
こんなこともあった。これは痛快だった。
ゼミの仲間で隣県に旅行に行くことになった。一泊二日の恒例行事だ。
隣県の県庁所在地の街に行った時のことだ。
私と悪党連中は無理やり同じゼミに所属させられていた。
まあ、お察しの通り悪党連中にとっては私に対するいじめ旅行だった。
あらゆる道中で私をいびり倒した。小突き倒した。
チャーターしたバスでは後部の席部分はちょっとした宴会ができるように中央部分にテーブルがあるような席配置だった。
私は前部の普通の座席に座りたかったが悪党連中に無理やり呼び出されていじられた。
訪問地でも同様。記念写真ではみんなが笑顔で映っているのに私だけ暗い表情をしていた。その写真は今でも持っている。
宿泊先では愚論荘のいじめを旅館部屋に舞台を移して行われたようなものだ。
生きた心地がしなかった。最悪の旅行だった。それが社会人の時に旅行三昧になった。反動なのかもしれない。
二日目の昼間、街の繁華街に悪党連中と一緒に歩かされていた。ゲーセンなどがある雑居ビルが立ち並ぶあたりに来た。高岡は妙に私に絡んでいた。私に十六文キックを浴びせてきた。きっと私をカツアゲするような不良の気分に浸っていたのだろう。
「服を脱げw」
高岡はゲラゲラ笑いながら私の服を剥ぎ取りにかかった。
そこへサラリーマン風の若い男性が通りかかった。
「今、見ましたね」
男性は近くを通りかかった高齢男性に確認を取ると高岡の胸倉を思い切りつかんだ。
「てめえ!!今何をしていた?おお?」
「こ、紺野を呼んで来い・・」
高岡は顔面蒼白である。
私は男性を必死に止めた。高岡をかばうつもりはない。こんな繁華街で騒ぎになって色々な人に迷惑をかけたくなかったからだ。
「何であんたに言われなければならないんすか?」
高岡は口ごたえした。
男性は逆上し更に激しく胸倉をつかみ上げた。高岡の上半身は裸になりかけた。
高岡を引き倒さんばかりの勢いだ。
周りには群衆が集まりかけていたのを見た。
その頃、紺野と疋田は少し離れた場所で女の子と話し込んでいたらしい。紺野の話によれば。
「喧嘩が起きている!警察呼んできて!」
紺野は女の子に呼びかけたらしい。
男性は連れの男性に引き留められて高岡から引き離されて去っていった。
「県外まで行って揉め事起こしたくなかったからよ・・・」
「やくざモンか・・・?」
「上着が伸びてしまった・・・」
高岡は余程ビビったのか少し涙目になっていた。
帰りのバスの中では紺野は他の者に言っていた。
「こいつ(shiroukii)のせいでよ、高岡がチンピラに絡まれた」
と。何を言ってやがると私は心の中で思った。
「英雄だったんだろうなあ?喧嘩の仲裁に入ったってことでよお?」
高岡も不貞腐れたように吐き捨てた。
不思議なもんだ。やや不謹慎かもしれないが、ザマ見ろ的なことも思っていた。
今でも当時のチンピラ騒ぎを思うと悪党連中に思うのだ。ザマ見ろと。
たまに思い出すとニヤニヤしている不謹慎な自分がいる。