「地獄大学」26 山に連行される。彷徨。
こんなこともあった。
タイトル通り「山に連行」。
ある日、夜も回ってから北村荘に悪党どもが押しかけてきた。
今日はもう連中とは関わらずに済むと思っていたのに。門限も近いというのに。
「いいから俺たちと来いや」
断っても無駄だった。
連中は私の部屋に押しかけると部屋をメチャクチャに荒らし始めた。
「行くよなあ??」
部屋のモノというモノをぶちまけた。私が行くと言うまで荒らし続けた。
仕方がなく行くことにした。
過去、北村荘では悪党連中が騒いで迷惑かけたから。その二の舞は避けたかった。
部屋にしまっていた半纏(はんてん)を着ていけと命令された。
おばさんに急遽泊まると断りを入れて仕方がなく北村荘を後にした。
疋田の車で向かったのはとある山林。ちょっとした観光地モドキではないが
私の記憶によれば何か霊が出る云々みたいで若者らが集まっていた。
その噂を聞きつけて悪党どもは私を無理やり連れだしてきたってわけだ。
自分たちだけで行けばいいのに。こいつらには常識は通用しない。
山林内に悪党どもと私は入っていった。目印とやらの木ということでへし折った木を道端に置いて進んでいった。記憶はうろ覚えだが霊の出るとの場所で私は例の低俗な踊りを強制して踊らされた。怖かったが仕方がない。連中はゲラゲラ笑っていた。
さて、戻ろうかと思ったら帰路を見失った。目印の木なんて意味がなかった。
既に深夜。明かりもない森林地帯の中、完全に我々は(本当は我々なんて言葉使いたくないが)彷徨う身となってしまった。
あわてて、右往左往して木々をかき分けて進むも同じような光景ばかり。むしろどんどん木々が険しくなっていく。
新田次郎氏の小説「八甲田山死の彷徨」を思い出させた。雪がないというだけで。
ひたすら木々や草木をかき分けて疾走してゆく。私は般若心経を小声で唱え続けた。
「ああ、これが呪いってやつなのか~」
高岡がわめいた。かきわけ、かきわけ、山の斜面を登り下りを長時間繰り返した。
私が着せられていた半纏もボロボロになっていた。恐怖が身を襲ってきた。
大きな穴が開いているに違いない。転落したら最期だ。こんな所でこんな連中と・・。
どれくらい時間が経っただろう。うっすらと日が差し込み始めた。
そしてだんだんと明るくなり広い場所に出た。
我々はホッとしてきた。連中から例の低俗な踊りをやれと命令された。
もうヤケクソだった。踊った。
遠くの森の外にて地元民と思われる人を見かけた。
我々は必死に助けてくださいと叫んだ。その人の助言に従い少し進むと不思議と疋田の車の場所にたどり着いた。我々は助かった。
すぐに北村荘に戻り泥のように眠った。悪党連中によって荒らされた部屋の中で。
昼過ぎから講義があったので急いで受講した。
悪党連中はみんなに山に行って遭難したんだぜ~って自慢していた。アホか。
飯山先生(仮名)が呆れた顔で話しかけてきた。
「連中と一緒に山に行ったんだって?」
「そうですけど、あれは拉致も当然に連れ去られて山に行ったんですよ・・・」
私もまた呆れていた。飯山先生も苦笑いしていた。ああ軽蔑されているんだろうな。
下宿に戻り、下宿人たちから昨夜の顛末を訊かれた。
実際に悪党によって自分の荒らされた部屋を見てもらった。下宿人たちは唖然としていた。
情けない。悪党連中が北村荘に押しかけたのはこれが最後だ。