「地獄大学」34 大学時代の終わりに③
私が迷惑をかけまくった北村荘。もうすぐ北村荘ともおさらばだ。
私は下宿開設以来の問題児だったろう。北村おばさん、すまなかった。
下宿人のみんな、すまなかった。
郵便受けに目をやる。今日は嫌がらせの手紙が来てなかった。
嫌がらせの手紙?
雑誌や新聞についてくる葉書がある。ヨガ、髪の植毛、占い、など怪しい広告についてくる葉書。その葉書に悪党どもが私の名前と住所を書いて資料請求したのだ。何通かその資料が郵送されてきたのだ。全く・・・。
卒業間際になって疋田が自分の知り合いのDJとやらに例の低俗な踊りの掛け声をもとに
音楽を作成したらしい。愚論荘にて聞かされた。下品な音楽だったが私はもう何も感じなかった。悪党どもはゲラゲラ笑っていたけどね。
大学時代の最後の愚論荘での出来事。
「ボコボコに殴った角松と違って俺らはちょっと小突いただけだ」
言い訳が始まったかと思えば
「だからいじめられるんだよ」
「社会人になってもいじめをやる奴なんていない。でもお前は社会では通用しない」
と説教しだした。ハイハイ、全くその通りでございます。これに関してはお前らが正しい。すみませんでしたねえ。
最後の最後まで悪党連中に不快にさせられてしまった。私が悪いんだけれども。
紺野や疋田が高岡の部屋から去り、古い畳敷きの部屋には私と高岡だけが残った。
しばらくの静寂の後、私は絞り出すような声を出した。
「これでお前と別れることができる。オリエンテーションの時にお前と会わなければ
四年間、こんなひどい目にあわなかったんだよ」
「なんとでも言え。どうせ俺は利己主義者だ。俺はそうやっていじめから逃れた」
高岡は不貞腐れた。
フン!私はその後すぐに高岡の部屋を飛び出し愚論荘からも飛び出した。
一度も振り返ることもなく北村荘に着いた。
卒業式のことなんてあまり覚えていない。最後の最後ということで悪党どもがヘラヘラと私に笑いかけてきたことは覚えているが。それが最後。
高岡は私の両親も片銀市に来るのでいじめがバレるのか?などとビクビクしていたが、心配するな、今更問題にしたくないからな、と高岡にくぎを刺しておいた。
こうして地獄の四年間が終わった。卒業式後、私と私の両親は片銀県のもう一つの大都市に向けて出発した。観光だ。
「さようなら片銀市。ありがとう片銀市」
私は発車する列車の中でつぶやいた。私にとってはいわくつきの街になってしまった。
でも良い街だったよ。
走り出した列車の中で私は車窓から街の外の景色を淡々と眺めていた。