「地獄大学」6 悲運。インチキ宗教との出会い②
私は教団の洗脳に染まっていた頃、校舎内で潮田君にも「お祈り」をさせてと言ったことがある。もちろん宗教団体に入っているとは言わない。これは流行っているお祈りだからと。潮田君は応じてくれた。(社交辞令だろうが)今思えばとんでもない。
なお、私は誓って言う。自分から信者獲得には動いていない。誘ったこともない。
まず反省したい。こんなインチキ宗教に熱を上げるのが間違い。ほぼ強制的に入信させられたとはいえ私は脇が甘かった。空き缶拾いをしていたのが悪いのではない。渡辺が言い寄ってきた時に走って逃げるべきだったのだ。追いかけてきたら大声を出す、できなかった私の失態だ。
そして洗脳が解けるときが来る。例のスーパーの近くで高岡に例の「お祈り」をさせてと言いかけた。
高岡はさっと顔色を変えた。
「それ何?まさかインチキな新興宗教ではないだろうな?俺たち家族はそんな宗教に騙されてひどい目にあったんだぞ!」
「いや、そういうわけでなく・・・」
言葉を濁す。
「ではなんだ??言ってみろ」
「実は・・・そこのスーパーの駐車場でその宗教団体の人に絡まれて無理矢理に話を聞いてくれと言われて・・・そのまじない云々ゴニョゴニョ・・・」
さすがに教団に入信したとまでは言わなかったが、高岡に問い詰められて事実上白状したようなもんだ。
「なんだそれ?そうなったらお終いだろうが。まさか入信したとか?」
「いや、入信まではしていないよ・・・・」
歯切れが悪かった。結果、雰囲気が悪くなってしまった感じはあった。
それから高岡が言うにはかつて自分たち家族は不幸な体験から変な新興宗教に入ってしまい、効果がなく金だけを取られて騙されたんだと。
さすがに自分がやばい集団に入ってしまったと感じた。すぐに洗脳は解けた。短い間だったが洗脳は怖いもんだ。
さて、脱会という言葉が頭をよぎった。素直に脱会させてくれるだろうか。ああ面倒くさい。なんて理由をつけて辞めようか。悩んだ。
そんな折に高岡、紺野、角松の三人が私の住む下宿北村壮に行かせろと言ってきた。断れるわけなかった。すでに地獄が始まり連中の言いなりになっていたから仕方なく応じた。私は三人が下宿を訪れるのを憂鬱な気持ちで待った。
下宿に誰か来た物音がした。北村おばさんが迎え入れた。ドカドカと階段を上がる音がしたと思ったらいきなり部屋のドアが開いた。開けたのは角松だった。ノックも掛け声もせずに勢いよくドアを開けた。自己中な奴だ。
三人はヘラヘラ笑いながら部屋を見渡した。へえここがshiroukiiの部屋かぁ、と。
何が始まったかと言えば部屋の物色だ。家具なんてちゃぶ台と本棚(教科書や漫画本を入れていた)くらいのものだったが彼らは漫画本にケチ付けたり、押し入れを開けて物品を漁った。
これじゃまるで小学時代にも経験したやつだ。そして例の教団の資料(説明プリントとか入っている)が見つかってしまった。
「なんだこりゃ?〇〇教?気持ちわりい~」
「わははは〇〇教!〇〇教!」
「shiroukiiがこんな宗教に入っているとか思いたくねえよなぁ」
三人は大騒ぎした。ゲラゲラ笑いだした。
「おいshiroukii!下の場所に自販機があったよなあ。ジュース買ってこいや!」
紺野と角松に命令された。行くしかなかった。すでにいじめを受けていたから。
仕方なく下宿を出て坂の下の方にある自販機でジュースを買った。戻ってきた時には
北村荘の空気が変わっていた。
自分の部屋に戻るなり三人に睨まれた。
「おい、変な奴が出てきてよお。うるさいと言ってきたぞ!」壁は薄い。どこかの賃貸と同じ。
そこへ、私の部屋に乗り込んできたガタイのいい男が叫んだ。
「お前ら、今すぐ出ていけ!!!」
あまりの迫力に三人はスゴスゴと北村壮を後にした。彼らは玄関から出た時に唾を外に吐き捨てた。私は部屋に戻った。待っていたのは針のムシロだった。
下宿の住人達とおばさんに強く睨まれた。私は平謝りした。
「お前なんだ!あの連中は?うるさくてたまらなかったぞ!それにジュースを買いに行った?なぜパシリみたいに行ったんだ。それが友達なのかよ!」
三人を追い出したのは佐木先輩(仮名)四年生。格闘技経験者らしい。だからガタイが良かった。
「今度あんな奴らが来たら痛い目にあわす!伝えろ」
佐木先輩は私を睨みつけるように言った。私は黙ってすみませんとしか言えなかった。
先に三人に文句を言ったのが三鈴先輩(仮名)三年生。彼からも少々小言を食らった。
さてさて、早速下宿先にも迷惑をかけた。散々だった。せめての休息の場である下宿先ですら地獄の場と変わった。ああ情けない。
私は思った。友人に教団に入っていることがバレた、と言い訳をつけて教団を辞めようと。格好の理由が出来たと思った。次回脱会のことについて書きたい。