「地獄大学」28 悪党の家族と面会②
私を含め悪党の四人は高岡の実家の玄関をくぐった。
もうどんな家だったのかは思い出せない。普通の家だったんだろう。
記憶に残らないっていうか印象に残すほどではなかった。一刻も早く高岡の実家から出たかったから印象に残らなかったかもしれない。
高岡の両親と祖母が出迎えた。私はとてもではないが彼らと顔を合わせるのが怖かった。あまり目を合わせられなかった。
当然ながら高岡の家族サイドには私は親友として報告されている。いい奴だと報告されている。しかし実際は違う。高岡は加害者、私は被害者。
殴られ小突かれいじられる。それをテープに録音されている。おぞましい。
それに私は愚論荘で料理も強制されていたこともあった。私に拒否権はなかった。
料理?カレーやシチュー。市販のルウを使って煮込んだだけ。
愚論荘の調理場なんて利用できるわけがなく、愚論荘の廊下の流しで材料を切らされて
高岡の部屋にあったカセットコンロで煮込まされた。もう何でもあり。
愚論荘側も安全管理や衛生管理について下宿生に指導がなっていなかった。
それを料理までしてくれるいい奴なんだよと報告されていた。
私が帰省先から片銀市に戻ると地元の銘菓を悪党に献上しないといけなかった。
それを高岡は実家に持って帰って奴の両親は絶賛した。
ある年、私は高岡に年賀状を出すことを強制された。私に拒否権はなかった。
お年玉付き懸賞年賀はがきで末等ではあるが当選したらしい。
高岡はそれを吹聴した。もちろん実家にも報告がいっただろう。
とにかく、私は高岡の家族サイドから親友だと思われていた。
本当は違うのに。
「いえ、私は高岡君からいじめを受けているんです」
って暴露すればよかった?
私にそんな度胸はなかった。そんな告白をしたら修羅場になるだろう。
そうすれば事態が変わるかもしれなかった。でも地獄だ。
私にそんな度胸はなかった。二回言った。
今から思えば高岡の家族に不快な思いはさせたくなかった。
要するに私はヘタレだったのだ。
高岡の実家で料理が出された。
まずくはなかった。しかし美味しいとも感じなかった。
当たり前か。その場にいること自体苦痛だったから味覚もおかしくなっている。
長い長い一日は終わろうとしていた。