猥談野郎②
そんな時に私に辞令が下った。
「新設の施設に数か月間異動を命ずる」
つまりだ。杉田と一緒の施設に一時的とはいえ勤務するのだ。
新設だから職員が足りない。だから私が数か月応援に入るのだ。
私は本性を現す前の杉田とLINE交換を行っていた。
新施設へ勤務開始と同時に杉田と私は色々と仕事をしながら試行錯誤した。
仕事については本当に大変だった。
数か月勤務のつもりが半年勤務に延長されてしまった。
それに動き回る利用者も多く気が休まらなかった。
覚えることが山のように多く走り回った。駆けずり回った。
失敗もした。
新施設でも他の職員と協力して親しくなった人もいた。
勤務期間は半年だが数年間務めたような錯覚すら覚えた。
仕事の後、杉田から毎日とまではいかないが頻繁にLINEが来るようになった。
まず彼は仕事の挨拶とか仕事や人間関係の愚痴とかをLINEで送ってきた。
まずはその話題をしばらく話し込んだ。
そこまでは一般の人と変わらないかもしれない。
しかし問題はその後だ。
必ず下ネタに移行する。
そしてペ〇ス話が大好きだ。
それが延々と長時間続くからたまらない。
下ネタなんては言わないに越したことはない。本当は言わない方がいいのだ。
でも言ってもさらりと言うにとどめるべきなのだ。信頼関係のある間柄のみで。
信頼関係のある仲間で一言だけ、さらりと言うだけなら場を和ます効果もあるかもしれない。
(でも職場とか公共の場では絶対にやってはいけない。初対面の相手でもタブー)
しかもタチが悪いことに杉田は私に対して恋愛体験や性体験などを細かく訊いてきた。
初めて付き合ったのはいつだの、初めての性体験はいつだの、
性体験の細かい様子まで訊いてきたのだ。自分や相手の様子はどうだった?とか
〇位は?時間は?ああアホかと。
相手の年齢や関係は?その相手とはどうなった?とか、
現在は交際相手はいるの?とか何年間交際相手がいないの?とか
〇慰行為では何を想像した?だの、その行為で何センチ〇んだの?とか、
何日ぶりに〇慰行為をしただの。今日はするつもりはないの?とか。
ペ〇スの角度だの、長さだの、太さだの、アホかと。
私は答えるのが苦痛で仕方がなかった。
特に恋愛・性体験については私は経験がない。あるのは片思いのみ。
馬鹿正直に経験ありません、なんて答えるわけにはいかず。
とっさの判断にて私は「体験を捏造」して話した。
LINE上とはいえ嘘をつくのは後ろめたさがないとは言わない。
しかし嘘も方便というではないか。なんでも嘘はイケマセンでなくてもよい。
でもやはり辛かった。嘘をついているのもあるけど。
でも若き日々に体験できなかった色恋沙汰をさもあったかのように振る舞う。
私は何をやっているんだ、と苦しかった。
もちろん、私が一方的に訊かれているわけではなく、
杉田自身も自分の性体験や恋愛体験を自慢して語っていたが。
そして続くペ〇ス話。
夜遅くまで続くもんだから私自身が「寝落ち」することも多かったが
わざと「寝落ち」したふりをして無視することもあった。
ああつらい。
他の話題を差し向けてみてもノリが悪い。そしてまた下ネタが始まる。
賢明な読者の方は気づいていると思う。
杉田は「わざとやっている」と。
私が恋愛経験がない事を推測していて私をからかい、煽るためにネチネチとLINE上で訊いてきていると。私の反応を面白がっていると。
私もそう思う。もちろん確証があったわけではない。証拠なんてない。
しかし事細かく過去の恋愛性体験を訊いてくるなんて失礼極まりないし
私を明らかに下に見ているからこそ出来るんだろう。
「siroukiiさんって〇貞だよね?」
そんなことを訊いてくること自体が失礼なのだ。見下していなければ出ない言葉だ。
足元を見られている・・・・。
またしても変な奴と知り合ってしまった。全く私って・・。
ふと思い出した。
幼少期、見知らぬ女性から言われた言葉。
「あなた因縁重いね」
ああ、どこまでこの因縁は続くのか・・・
悩んでも仕方がない。
ヤバい、何とかしないと。
でも一緒に仕事している以上、無碍にはできない。さてどうしようか。
こちらからは杉田に連絡はしなかった。
それに杉田から個人的に会ってみないか?
と誘われていたが勤務の都合とか用事を理由に断り続けた。
当然の判断だ。杉田自体から怪しい、キモい雰囲気が感じられていたからだ。
そうこうしているうちに半年後、やっと元の施設に戻ることができた。
杉田はそのすぐ後、他の施設に転職した。杉田自身散々LINEで愚痴っていたが
職場の人間関係で仲の良くない職員もいたし上司ともそりが合わなかったらしい。
杉田はスマートフォンの機種変更をするらしい。
これは好機だ。
これを機に杉田からのLINEを無視することにした。
機種変更で不都合が生じたと表向きはそう思わせよう。
こうして杉田を無視した。